TOEIC高得点なのに話せない理由|スコアと実務英語のギャップ
TOEIC 800点。900点。履歴書には堂々と書ける数字です。それなのに、英語の会議では一言も発言できないまま終わる。相手の質問に「Yes, yes」としか返せない。この落差に悩む人は非常に多いです。
結論から書きます。これは英語力が足りないからではありません。TOEICが測っている能力と、実務で必要になる能力がそもそも別物だからです。ギャップの正体が分かれば、次にやるべき練習も自動的に決まります。
TOEICは4技能のうち2つしか測っていない
まず事実の確認からです。日本で一般に「TOEIC」と呼ばれているのは TOEIC Listening & Reading Test で、その名のとおり聞く力と読む力だけを測る試験です。話す力と書く力を測る TOEIC Speaking & Writing Test は別の試験で、受験者数はL&Rよりずっと少ないのが実情です。
| 技能 | TOEIC L&R で測るか | 実務での使用頻度 |
|---|---|---|
| 聞く | 測る | 高い |
| 読む | 測る | 高い |
| 話す | 測らない | 非常に高い |
| 書く | 測らない | 高い |
つまりL&Rの高得点者とは、話す練習を一度もしなくても高得点が取れた人のことです。話せないのは当たり前で、能力の問題ではありません。測っていない領域を鍛えてこなかった、それだけの話です。
ギャップ1:分かる単語と、使える単語は別のもの
TOEICのリーディングは4択です。選択肢の中に正解があるので、その単語を「見て分かる」だけで正解できます。しかし実務では、選択肢はどこにもありません。自分の頭の中から、ゼロから単語を引き出す必要があります。
見て分かる語彙(認識語彙)と、自分で使える語彙(使用語彙)は別の引き出しに入っています。そして使える語彙のほうが、分かる語彙よりはるかに少ないのが普通です。スコアが伸びても話せない感覚が消えないのは、増えているのが認識語彙の側だけだからです。
ギャップ2:自分のペースか、相手のペースか
リーディングは自分のペースで読めます。分からなければ戻って読み返せます。リスニングも、設問は事前に目を通せますし、スクリプトは一つの声で、雑音もありません。
実務はその逆です。相手のペースで話は進み、複数人が同時に話し、回線は途切れ、話者にはそれぞれの訛りがあります。しかも聞きながら、同時に自分の返答を組み立てなければいけません。試験で測られているのは理解力ですが、実務で問われているのはリアルタイムの処理速度です。この差は、テストのスコアには一切反映されません。聞き取りが追いつかない感覚については 英語が聞き取れない原因と勉強法 で詳しく分解しています。
ギャップ3:聞き分けられても、自分で出せるとは限らない
ここが最も見落とされる点です。リスニングで満点近くを取れる人でも、自分の英語のリズムは日本語のままということがよくあります。聞く力と出す力は、別々に鍛える必要があるのです。
そして実務で相手に伝わるかどうかを決めているのは、個々の音の正確さよりもリズムと強弱です。日本語はすべての音をほぼ同じ長さ・同じ強さで発音しますが、英語は強く長い音節と弱く短い音節の差が非常に大きい言語です。この差がないまま話すと、単語の発音自体は間違っていなくても、相手には輪郭のない音の列に聞こえます。詳しくは 英語の抑揚(イントネーション)の付け方 をご覧ください。
「まずスコアを900まで上げて、それから話す練習をする」
この順番だと、話す練習の開始が何年も遅れます。しかもスコアを850から900に上げる労力は、実務での評価にはほとんど跳ね返りません。スコアが700を超えた時点で、伸ばす対象をアウトプットに切り替えるほうが、実務での手応えははるかに早く出ます。
アウトプット中心への切り替え設計
やることを増やす必要はありません。今のインプット学習の「目的」を変えるだけで、かなりの部分は切り替わります。
- インプットの目的を、理解から再現に変える:教材を聞いて意味が分かったら終わり、ではなく、同じリズムで自分の口から出せるまでやります。シャドーイングが最も効率のいい方法です。
- 強弱をつけて音読する:短い英文の内容語(名詞、動詞、形容詞)だけを強く、冠詞や前置詞は弱く短く読みます。日本人の感覚で大げさすぎるくらいで、英語ではちょうど自然です。個々の子音を直すより、この強弱を先にやるほうが伝わり方は変わります。
- 使用語彙を100語に絞る:自分の仕事で必ず使う表現だけを100個選び、口から即座に出るまで繰り返します。語彙を広げるのではなく、使える状態にする作業です。
- 声に出す時間を毎日確保する:10分で構いません。今日の会議で言いたかったことを、あとから一人で言い直すだけでも練習になります。
- 録音して聞き返す:自分の英語が平坦になっている箇所は、録音するとすぐ分かります。これが最も安く、最も効く自己フィードバックです。
- 実戦で発言の枠を先に決める:会議の最初の10分以内に1回は必ず発言する、と決めておきます。内容の質より、口を開く回数を先に確保します。
スコアが無駄になるわけではない
誤解のないように書いておくと、TOEICのスコアは無駄ではありません。書類選考を通るために必要な場面はありますし、高得点を取れるだけの語彙と文法の土台は、話す練習を始めるときにそのまま資産になります。土台がある人ほど、アウトプットの練習に切り替えたときの伸びは速いです。
問題はスコアそのものではなく、スコアを唯一の指標にし続けることです。実務で評価されているのは点数ではなく、会議で意見が伝わったか、相手が納得したか、という結果のほうです。この点は 外資系で英語がつらい・できないあなたへ でも触れています。
まとめ
- TOEIC L&Rは話す力を測っていない。話せないのは能力不足ではなく、鍛えていない領域があるだけ。
- ギャップは3つ。分かる語彙と使える語彙、自分のペースと相手のペース、聞き分ける力と自分で出す力。
- 切り替えの中心はリズムと強弱。個々の音を磨くより先に、強弱の差をつけるほうが伝わり方は変わる。
- 目指すのはネイティブのような英語ではなく、伝わる英語と、自信が伝わる印象。
スコアが高いのに話せないというのは、正しく努力してきた人にだけ起きる状態です。方向を少し変えるだけで、手応えは想像より早く戻ってきます。
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