監査対応の英語|外資系経理がBig4とのやり取りで使う表現
監査法人からの英語のメールが来て、意味はだいたい分かるのに、何をいつまでに出せばいいのかが読み切れない。会議で質問されて、日本語なら一言で済む説明が、英語だと前置きが長くなって、途中で別の質問に移られてしまう。外資系の経理や、海外子会社を持つ日本企業の決算担当の方から、監査対応についてはこの2つの悩みをよく聞きます。
監査の英語がやりにくいのは、単語が難しいからではありません。監査には決まった手続の流れがあり、その流れに紐づいた語彙が数十語だけ使われます。その対応表を持っていないと、知っている単語を並べているのに、監査人が求めているものと少しずれた資料を出してしまう状態になります。逆に言えば、覚える範囲は狭く、投資対効果はかなり高い領域です。
監査プロセスの英語は数十語で足りる
まず、監査人が使う言葉が監査手続のどの段階を指しているかを固定します。日本語の会計実務で使う言葉と一対一で対応しない語があるので、そこが読み違いの入口になります。
| 英語 | 指すもの | 日本語での言い方 |
|---|---|---|
| PBC list(prepared by client) | 監査人が期初に出す依頼資料の一覧 | 依頼資料リスト |
| walkthrough | 取引を1件たどって業務の流れと統制を確認する手続 | 業務プロセスの通査 |
| materiality | 金額的な重要性の基準値。これ未満は原則追わない | 重要性の基準値 |
| sample / sampling | 母集団から抽出した検証対象 | サンプル、試査 |
| tie-out | 資料の数字と元帳や試算表を突き合わせること | 照合、突合 |
| supporting documents | 請求書や契約書など、数字の裏づけになる書類 | 証憑 |
| confirmation | 銀行や取引先に直接出す残高確認状 | 確認状 |
| roll-forward | 期首残高に増減を足して期末残高に至る動きの表 | 増減表 |
| audit adjustment(AJE) | 監査人が求める修正仕訳 | 監査修正 |
| unadjusted difference | 重要性未満のため修正しないまま残す差異 | 未修正の差異 |
| deficiency | 内部統制の不備。significant なら重大な不備 | 統制の不備 |
| management representation letter | 経営者が事実を保証する差入書 | 経営者確認書 |
| clearance meeting | 監査の終盤に論点をつぶす会議 | 最終協議 |
意味の取り違えが起きやすいのは materiality です。「重要な項目」という一般的な形容ではなく、金額のしきい値を指しています。This is below materiality. と言われたら、内容の是非ではなく、金額が小さいので手続の対象から外すという意味です。会計そのものの英語に不安がある方は、金融・会計の英語用語一覧で土台を作ってから読むと入りやすくなります。
依頼メールは「何を・いつまでに・なぜ」の3点だけ読む
監査人からのメールは丁寧な前置きが長く、日本語話者にはどこが本題か見えにくいことがあります。実際に読む必要があるのは3点です。何を(対象と期間)、いつまでに(期日)、なぜ(どの手続のためか)。特に3つ目を落とすと、出す資料の粒度がずれます。
- Could you please provide the AR aging as at 30 June? 何を = 6月末時点の売掛金年齢表
- We would need this by Thursday to complete our testing. いつまでに = 木曜、なぜ = テスト完了のため
- For our revenue testing, we have selected the samples below. なぜ = 売上のサンプルテスト。この一文があれば、求められているのは一覧ではなく個別の証憑だと分かる
目的が書かれていないときは、推測して作り込むより聞いた方が早いです。What is this for? では強く響くので、May I ask what testing this is for, so I can send the right level of detail? と目的を添えて聞きます。この一文があるだけで、往復が1回減ります。
回答は3つの型で足りる
返信で迷うのは、出せるとき、一部しか出せないとき、出せないときの3パターンです。それぞれ一文の型を持っておくと、書く時間も会議で答える時間も短くなります。
→ 添付の説明、そのあとに監査人が次に聞くはずのことを先回りして書く。
一部しか出せないとき: "We can send the ledger by Wednesday. The signed contract is with the client's legal team, so we expect it by Friday."
→ 出せる分と期日、出せない分と理由と見込み時期を分けて書く。
出せないとき: "We do not keep this in that format. The closest we have is the monthly summary. Would that work for your testing?"
→ 無いと言い切って終わらせず、代替案を出して相手に選ばせる。
3つに共通するのは、結論を先に置いて理由を後に回すことです。日本語の感覚で経緯から書き始めると、監査人は最後まで読まないと可否が分かりません。数字と理由を先後で並べる考え方は予実報告と同じで、予算・フォーキャストの英語で扱った型がそのまま使えます。
言い切れないときの逃げ道を持っておく
監査対応では、その場で断定してはいけない場面があります。断定を避けつつ止まらないための表現を3つ用意しておくと安心です。
- Let me confirm the treatment with our tax advisor and come back to you. 確認して折り返す
- My understanding is that it was booked in Q3, but let me check the ledger. 理解を述べつつ確認を留保する
- That is a fair point. We will look at whether the estimate needs revisiting. 指摘を受け止めて、結論は先に送る
会議で効くのは語彙より強弱
walkthrough や clearance meeting のような会議では、こちらが話す内容は短い説明の連続です。文が短いぶん、語彙で困ることはあまりありません。それでも伝わらないとしたら、たいていは全部を同じ強さで平坦に読んでいるからです。
上の例文なら、監査人が拾いたいのは Wednesday、legal team、Friday の3か所だけです。ここを強く、少し長めに言い、残りを軽く流すだけで、同じ文が一度で頭に入ります。金額を言うときも同じで、単位と数字を強く、前後の説明を弱く置きます。桁や増減の言い方が不安な方は、million・billionの変換と決算数値の言い方を先に固めておくと、この置き方がそのまま口から出ます。
直近に自分が書いた監査対応のメールを1通選び、英語で3文に書き直します。強く言う語に下線を引いてから録音し、聞き返して、下線の語が実際に浮き上がっているかを確認します。浮いていなければ、その語を1.5倍の長さで言い直します。練習時間の7割はこのリズムと強弱に配り、個々の子音や母音の作り方は残りの3割で十分です。目指すのはネイティブと同じ音になることではなく、期日と条件が一度で伝わる話し方です。
資料に載る英語は名詞で短く
監査人に渡すスケジュールやExcelのラベルは、文ではなく名詞で置くのが標準です。Roll-forward of Fixed Assets、AR Aging as at 30 June、Reconciliation to GL のように短く書きます。日本語の資料に慣れていると説明を書き込みたくなりますが、書き込むほど読まれません。文字で説明する分は口頭かメール本文に回す、という分担が前提です。
渡す資料の中身、つまり勘定科目の並びと対訳が頭に入っていると、監査人との会話は目に見えて速くなります。そこが不安な方は英文財務諸表の読み方を先に読んでおくと、この記事の用語がつながります。
まとめ
- 監査の英語は手続に紐づいた数十語で足りる。PBC、walkthrough、materiality、tie-out から固める。
- materiality は「重要な」ではなく金額のしきい値。below materiality は手続の対象外という意味。
- 依頼メールは何を・いつまでに・なぜの3点だけ読む。目的が書かれていなければ聞いた方が早い。
- 回答は、出せる、一部出せる、出せないの3つの型で足りる。結論を先、理由を後に置く。
- 練習の7割はリズムと強弱に。期日と条件の3語を浮かせれば、同じ文が一度で伝わる。
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